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東京高等裁判所 平成6年(ネ)2755号 判決 1995年11月29日

主文

一  一審原告の本件控訴を棄却する。

当審において拡張された請求部分につき、

一審被告司法書士会は、一審原告に対し、原審認容の金額のほか、さらに、金一六五万円に対する昭和六〇年二月六日から同年一〇月二二日まで年五分の割合による金員を支払え。

一審原告の一審被告司法書士会に対するその余の拡張部分の請求及び一審被告国に対する拡張部分の請求をいずれも棄却する。

二  一審被告司法書士会の本件控訴を棄却する。

三  当審における訴訟費用は、一審原告と一審被告国間に生じたものは一審原告の負担とし、一審原告と一審被告司法書士会間に生じたものは各自の負担とする。

理由

一  当裁判所も、甲事件につき、一審原告の本訴請求は、原判決認容の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却し(但し、遅延損害金の請求については、当審における請求拡張部分につき、本判決第一項記載の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却する。)、丙・丁事件につき、一審原告の本件各訴えは、いずれもこれを不適法として却下し、乙事件につき、一審被告司法書士会の本訴請求は、原判決認容の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり、付加、訂正するほかは、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三三丁裏一行目の「登記業務」を「登記申請代理業務」と改める。

2  原判決三三丁裏六行目の「甲第二号証の二、」の次に「甲第三号証、」を、「甲第五号証」の次に「(但し、一審被告国との間では、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)」を、同九行目の「乙第二六号証、」の次に「第二七号証、」を、同一〇行目の「第七〇号証」の次に「、第七六号証、第八一号証」を、同一一行目の「第四六号証、」の次に「第五五号証、」を、同三四丁表一行目の「甲第二号証の二、」の次に「甲第三号証、」を、各加える。

3  同三六丁表五行目の「兼トスル」を「業トスル」に改める。

4  同三九丁裏五行目の「考えられる。」の次に、「前示のとおり、非訟事件手続法六条二項は、登記関係事務を含む非訟事件につき、弁護士でない者が、その代理を営業として行うことを原則として禁じていたのであるが、不動産登記法制定の直後に司法省民刑事局長第八〇三号回答により、同条同項の規定が登記申請の代理には適用されないとしたのは、このことを考慮して、代書人の営業の保護を図ったものと認められる。」を加える。

5  同四二丁裏九行目冒頭から同四四丁裏九行目末尾までを、次のとおりに改める。

「(1) 明治二三年の裁判所構成法の制定により通常裁判所である区裁判所において、非訟事件として不動産登記及び商業登記が取り扱われることになり、一方、明治二六年の旧々弁護士法の制定により、それまで民事訴訟及び刑事訴訟に限られていた弁護士(代言人)の職務が、「弁護士ハ当事者ノ委任ヲ受ケ又ハ裁判所ノ命令ニ従ヒ通常裁判所ニ於テ法律ニ定メタル職務ヲ行フモノトス但シ特別法ニ因リ特別裁判所ニ於テ其職務ヲ行フコトヲ妨ケス」とされたこと、明治三一年の非訟事件手続法六条一項は、登記事務を含む非訟事件については、能力者であれば代理ができることとしながら、同条二項により、弁護士でない者が、その代理を営業として行うことを原則として禁止する旨を規定し、登記事務を含む非訟事件の代理は原則として弁護士のみが業として行なうことができることを明示していたにかかわらず、翌明治三二年の不動産登記法の制定直後に、もっぱら非弁護士である代書人の営業を保護するため、司法省民刑事局長第八〇三号回答により、同条同項の規定が登記申請の代理には適用されない運用が行われたこと、さらに、昭和八年の旧弁護士法の制定により、その第一条に、「弁護士ハ当事者其ノ他ノ関係人ノ委嘱又ハ官庁ノ選任ニ因リ訴訟ニ関スル行為其ノ他一般ノ法律事務ヲ行フコトヲ職務トス」との規定が置かれ、弁護士の職務は、それまで弁護士の職務として明定されていなかった裁判外の法律事務を含め、「一般ノ法律事務」に及ぶものであることが明示されたこと、現行の弁護士法は、その三条一項に、右沿革を踏まえたうえ、行政訴訟事件や行政庁に対する不服申立事件が加わったため、これに関する行為が弁護士の職務であることを明示するために、「弁護士は、当事者その他の関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。」と規定したこと、最高裁判所昭和四六年七月一四日大法廷判決(刑集二五巻五号六九〇頁)が述べるとおり、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行うことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられている」ことに鑑みれば、右「一般の法律事務」とは、「ひろく法律事務」全般を指すことは明らかであり、法律事務の一分野に属する登記申請代理行為が、右「一般の法律事務」として弁護士の職務に含まれることもまた、明らかといわなければならない。

(2) このことと、司法書士の前身である代書人は、明治一九年の旧登記法の制定以来、業として実際に登記申請書の代書及び申請手続の代理を行ってきたとはいえ、あくまで代書がその本務とされ、登記申請の代理は代書業務の付随業務として事実上行われていたものであり、大正八年の司法代書人法によっても「裁判所に提出すべき書類の作成」として、登記申請書の作成が職務として認められたにすぎず、昭和四二年の司法書士法改正により初めて登記申請代理がその職務に含まれることが明文上是認されたことを考え合わせると、弁護士法が、同法制定後に制定された司法書士法一九条一項但し書の「他の法律」に当たることは明らかである。」

6  同四五丁表六行目の「前記認定のとおり」から同九行目の「解されない。」までを、「前示の各立法の経緯に照らせば、代書人規則一七条が弁護士の行う登記申請代理行為に適用されるものとして規定されたものとは、到底考えられず、」に改める。

7  同四六丁表二行目冒頭から同八行目末尾までを、次のとおりに改める。

「しかし、弁護士法七二条の規定の趣旨は、前示最高裁判所大法廷判決が、前示引用の記載に引き続いて、「世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。しかし、右のような弊害の防止のためには、私利をはかってみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであって、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもって目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。このような立法趣旨に徴すると、同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。」と述べているところに尽きるものと認められる。」

8  同四七丁裏一〇行目末尾に続いて、「一審被告司法書士会の右主張及びこれに沿う見解は、法文の僅かな語句にとらわれて、法制度全体のうちに法規の定める本旨をみない見解といわざるを得ない。」を加える。

9  同四八丁裏五行目の「しかし、」の次に、「前示のとおり、登記申請代理行為は、弁護士の職務に含まれるのであって、」を加える。

10  同四九丁表六行目の「他りる」を「足りる」に改める。

11  同五〇丁裏三行目末尾に、行を改めて、「なお、一審被告司法書士会は、本件文書には、弁護士の登記申請代理業務を違法と指摘した文言はどこにもなく、社会的に許容される範囲内のものであり、本件文書の内容が違法というためには、誰がみても不快感を覚える程度の客観性が必要であると主張する。

しかしながら、本件文書の内容が違法というためには、誰がみても不快感を覚えるような客観性は必要ではなく、前記1のとおり、本件文書を受領した者は、その者が法律の専門家ででもない限り、弁護士が登記申請代理業務を行うことは違法であると受け取るであろうことは推測に難くなく、本件文書の内容は違法であることは明らかであるから、一審被告司法書士会の右主張は採用できない。」を加える。

12  原判決五二丁表五行目の「被告司法書士会」から同七行目の「判断するまでもなく」を、「当時一審被告司法書士会の会長であったことは当事者間に争いがなく、本件文書の送付は松本が司法書士会の会長としての職務の執行としてなしたものであるから」に改める。

13  同五五丁表一行目の「但し」の前に、「原本の存在についても争いがない。」を加え、同八行目の「本件文書」から同一〇行目の「であること」までを「本件文書が乙山建設に発送されたのは昭和六〇年二月一日ころであり、乙山建設は、右文書を昭和六〇年二月六日までに受領し、そのころ一審原告に右文書が送付されたことを報告したこと」と訂正する。

14  同五五丁裏四行目の「認められる」を、「認められ、これを一審被告司法書士会が主張するように、本件文書が送付されたことによる対応以外の事務のために、一審原告と同じ事務所の税理士の税務事務の臨時の補助者として雇用したものであることを認めるに足りる証拠はない」に改める。

15  同五七丁裏五行目の「右の限度で理由がある」を、「右各損害額合計一六五万円及びこれに対する不法行為の日と認められる昭和六〇年二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある」に改める。

二  以上のとおりであって、原判決は正当であるから、一審原告及び一審被告司法書士会の本件控訴はいずれも棄却し、一審原告の当審における請求拡張部分につき、本判決主文第一項記載の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九二条を各適用して主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第一三民事部

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切 瞳 裁判官 芝田俊文)

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